大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)448号 判決 1960年3月22日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人及び上告人補助参加人の代理人弁護士竹西輝雄の上告理由第一点について。

本件荷渡依頼書が寄託者たる被上告人から倉庫業者にして受寄者たる上告人に宛て荷渡先を補助参加人と指定してこれに受寄物たる本件商品を引渡すべきことを依頼した書面にすぎないことは、原判決の適法に確定するところである。このような書面が荷渡先として指定された補助参加人に交付された後においては、補助参加人はこれを上告人に呈示して本件商品を受領し得べきであるけれども、右呈示前に被上告人において上告人に対する通知により前記依頼を撤回(原判決のいわゆる取消)することを妨げないものと解するのが相当である。けだし、補助参加人が本件荷渡依頼書の呈示により本件商品を受領し得るのは、上告人がこれによつて免責されるからであつて、上告人に対し本件商品引渡請求権を取得するわけではないからである。

されば、右撤回の効力を認めた原審の判断は正当であつて、論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決の確定するところによれば、被上告人と訴外大東貿易株式会社間の本件ハンカチーフ売買契約は特定物の売買契約であり、同訴外会社と補助参加人間の売買契約は不特定物の売買契約であつたというのである。されば、原判決が右各売買契約をいずれも不特定物の売買契約である旨判断したとし、これを前提とする所論は、すべてその前提において失当であつて採用できない。

次に、被上告人と訴外大東貿易株式会社間の右記売買契約には、これが代金を契約成立の日から約三日後である昭和二六年三月一九日の午後四時限り支払うこと、右約定日時迄に代金を支払わないときには契約は失効する旨の解除条件が付されていたことは、原判決の適法に確定するところである。それ故に特段の事情の存しない本件では、右売買の目的物たる本件ハンカチーフの所有権は右契約により当然同訴外会社に移転することはなかつたものと解するのが相当である。しかるに、原判決が右所有権は右売買契約により当然同訴外会社に移転した上で解除条件の成就により被上告人に復帰したものと解し、しかもその間所論特定により同訴外会社から補助参加人に移転したものと解することを得ない所以については何らの判断を示さなかつたのは失当を免れない。しかし、本件ハンカチーフの所有権が未だ前記訴外会社に移転しなかつたものと解すべきこと前示のとおりである以上、同訴外会社から更に補助参加人に移転したことを認めなかつた原判決の判断は結局相当たるに帰する。されば、この点に関する所論もまた採用し難い。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例